9月4・5・6日

・9月4日。日曜日。10時に起きる。先日の話だが、友人Dに「福島の話が載つてるよ」と言はれて『ユリイカ』を買つた(普段はあまり買はない)。今回はB級グルメ特集である。『普遍論争』の山内志朗や、生命科学者の郡司ペギオ幸夫なんかも文章を寄せてゐる。が、ほとんどの文章が「B級グルメ」を定義するというところから始まつてゐる。要は、元々の定義(里見真三による)がここ数年で変わつてきたといふのがその理由だらう。里見による定義には「天ぷら蕎麦」や「握り寿司」などの高級食も含まれてゐた(ポイントは「コストパフォーマンスがいい」といふことであつて、その値段の安さはあくまで相対的なものだつた)。しかし、最近では「ご当地グルメ」の意味で使われるやうになつてゐる。これは間違いなく「B-1グランプリ」のせいですね。このイベントは2006年から始まつたものだが、「安くて旨い」に「地方性」が加はつた。けれど、A級/B級といふ区分は具体性の問題だと思ふなあ。つまり、B級といふと「寿司」であれ「カレー」であれ、具体的な食べ物で、かたやA級と言はれる食べ物はフレンチのコース料理とか会席料理といつたやうにもつと複雑であつて、特定の料理を名指すことができない。さう考へると、近年の「ご当地グルメ」はその具体性がさらに具体的(ローカル)になつたわけである。まつたくの素人考へですが。といふわけで、今日は一日論文を書いてゐた。

☆東京の窓も開けたる夜なべかな

・9月5日。月曜日。当然ながら原稿は終はらずに徹夜。ひさびさだから躰にうんと堪える。分量としてはあつても、まとまりがない気もするが、とりあへずは正午の締切ぎりぎりに脱稿。よかつたよかつた。審査で落とされる可能性はまだあるけれど、いまはそれは考へないことにしやう。夜は眠かつたけれど、今日が楽日らしいので、新宿で芝居を見ることにした。自転車キンクリートといふ80年代からある劇団の鈴木裕美といふ演出家の「鈴木製作所」第1回公演「ノミコムオンナ」。贔屓にしてゐる蓬莱竜太の作である。会話劇のほとんどがダンス(といつてもパントマイムも多い)となつてゐるといふ芝居だつた(冨士山アネットが以前やつてゐたやうな創作方法)。つぶれさうなボクシングジムが舞台。ジムには美人の娘がひとりゐる。入門仕立ての細身長身の青年(社交性はないが、上達は早い)が、娘の彼氏(社交性はあるが遊び人肌であり、ジムを潰してカフェにしやうとしてゐる)とその娘を取り合ふ。この娘は一見すると悪女(ファム・ファタール)のやうなのだが、彼女自身が世界をコントロールしてゐるやうには見えない。かういふ芝居を見ると、やつぱり蓬莱竜太といふ劇作家はミソジニーなのかなと思つたりもする。ダンスだけを見てをれば楽しいが、案外暗い芝居だつたと思ふ。ちなみに、ボクシングジムの娘を演じてゐたのは陽月華といふ元宝塚で売り出し仲の若手女優だつたのだが、まだまだ小劇場で見るには耐えなかつたね。

・9月6日。火曜日。11時すぎに起きる。昨日は仕事を休んでしまつたが、今日も午後から出勤。たつぷりと睡眠時間はとつたのだが、背中の左側に痛みがある。夜は飲みに行かうと思つてゐたが、あまりに痛いので家に帰つて休むことに。27歳で「腰痛」つて、これはちよつと恥ずかしい気もするが、腰椎椎間板ヘルニアなどは若い人のはうが多いといふ。今週は完全休暇なので、治りがよくないやうだつたら、病院で診てもらはうと思ふ。話は戻つて『ユリイカ』のB級グルメ特集の話を書きます。具体性といふ話は、結局のところ「細分化」といふか、巻頭で千葉さんが言つてゐる「食べ比べ」といふところに結びついていくんですね。ラーメンが典型ですが、同じラーメンでも無数のバリエーションがある。さういふ意味では「ラーメン」にしても「カレー」にしても、最近の「焼きそば」や「餃子」でも具体的ではあるが、実際の食べ物よりも次数が「一次高い」概念なのである。ともあれ、これつてやつぱり「収集欲」の話だよなあ。「九谷焼き」とか「輪島塗り」といつた下位区分の前提に「骨董蒐集」といふのがある。だから「B級グルメ」つて、巻頭のお二人が言つてゐるやうに、とても「マッチョ」な発想である。そもそも自炊してたりお金がなかつたりしたら、こだわりやうがないもの。だから『ユリイカ』が「B級グルメ特集」といふのでちよつとびつくりしたけれど、よくよく考へてみると(坪内祐三が書いてゐたけれど)やっぱり「王道」なのだよなあ。